ルポルタージュ 産地・人を訪ねて 2010年5月号


気仙の秋を彩る小枝柿


気仙地域



気仙の宝「小枝柿」



 岩手県でもっとも温暖な気仙地域では、「小枝柿」という昔からの柿が栽培されています。小枝柿の最大の特徴は、「種ができない」こと。なんでも、昔むかし、気仙に来た旅人が食べ物がなくて困っていたときに、土地の人が柿を与え、旅人がそのお礼にと種なし柿にしてくれたという弘法大師伝説があります。これほど気仙の住民に愛され続け、現在まで受け継がれている品目はありません。

 この小枝柿を原料に、白い粉がふくまで手をかけた干し柿が「ころ柿」として販売されています。この「ころ柿」は、ただ干すだけでなく、一次乾燥後に1日数回行う「柿もみ」、きれいにかたちをそろえる「整形」などのこまめな作業が繰り返されます。農家の軒先を彩るころ柿の玉すだれは見事で美しく、気仙地域の秋から冬の風物詩として有名です。

一つ一つ整形し、きれいに並べてさらに寒風にさらすことで粉だしを行います
一つ一つ整形し、きれいに並べてさらに寒風にさらすことで粉だしを行います
収穫間近の果実。小振りなサイズも特徴の一つです
収穫間近の果実。
小振りなサイズも特徴の一つです


ころ柿作り。鮮やかな橙色がとてもきれいです
ころ柿作り。
鮮やかな橙色がとてもきれいです。


小枝柿の由来


 小枝柿のルーツは古く、大船渡市三陸町では推定樹齢300年の柿の古木が実在しています。「小枝柿」の名称は、この古木のある三陸町越喜来の肥田地区の地名にもとづき、「肥田柿(こえだがき)」にちなんだものではないかと言われています。昔から自家用として家や畑の周りなどに当たり前のように植えられ、干し柿や砂糖がわりの甘味料として使われました。

 また、放任状態でも結実することから管理する概念はなく、年による収穫量の変動が激しい果実でした。不思議なことに、気仙で栽培すると種はできないのですが、この苗木をとって気仙以外の地域で栽培すると、種のある柿になってしまうそうです。このため、小枝柿は気仙地域特有の柿となっています。


栽培の経緯


 現在栽培されている小枝柿は、昭和52年に「ころ柿」加工に適する系統を選抜・育成したものです。気仙管内の栽培面積は昭和62年までは横ばいでしたが、その後地域活性化事業の活用や加工処理施設の導入など産地化に向けた取り組みが始まりました。特に地域活性化事業では園地造成にも取り組み、それまで畑の周辺などに植えていたものが団地化されて栽培されるようになりました。その結果、小枝柿に「栽培する」という概念が生まれ、生産者の意識が大きく変わりました。それまで当たり前として考えられた生産量の年次変動が課題としてあげられ、肥培管理や整枝せん定等の普及拡大が進められています。また、ころ柿以外の加工品開発も進め、様々な商品も開発されました。このような取り組みにより、平成10年には気仙地域の柿栽培面積は42ha、「ころ柿」出荷量は約7t、約1千万円の販売額にまで成長しました。 


小枝柿を取り巻く現状


 近年は、消費者の嗜好の変化などにより販売価格は伸び悩み、生産者の高齢化も進む中で出荷量は減少し続けています。
 また、生産量の年次変動は改善されておらず、年によって大きな差があります。さらに、温暖化の影響で年々乾燥作業が遅れ、需要期の年末に出荷するのが難しくなってきています。
 一方で、ころ柿は地域特産の贈答品として根強い人気があります。
 また、地元菓子業者からの菓子原料としての引き合いも強く、安定的な供給が望まれています。


安定生産に向けた取り組み


 小枝柿の生産量が不安定となる主な要因は、隔年結果と生理落果です。特に6月下旬から7月にかけて発生する生理落果は、気象の影響を強く受け、着果量が大きく変動します。
 普及センターでは、生理落果を軽減させる方法として、摘らいの効果を実証する取り組みを平成19年から行いました。これまで得られた結果では、摘らいを行わない場合と比較して安定的な着果量が得られました。
 大船渡市農協小枝柿生産部会では、生理落果の状況把握を行う落果調査の実施や、せん定の講習会などを開催し、今年は35人ほどが参集しています。これらの活動を通し、生産の安定化に努めています。

摘らい前 摘らい後
摘らい効果の実証。
摘らい前(左)と摘らい後(右)。安定的な着果量が得られます
収穫間近の柿の樹園地
収穫間近の柿の樹園地

ころ柿の品質管理向上へ向けた取り組み


 大船渡市農協におけるころ柿の出荷は、地元の市場や贈答用を中心に行われています。従来の製品はパック詰めで、保管状態により品質低下を招く恐れがありました。

 また、個選によるものも多かったため、品質にばらつきもみられました。

 この問題を解決するために、農協を中心とした関係機関との話し合いの中で、脱気包装に出荷形態を変更することを考えました。平成20年に、共同加工利用施設に包装機械が整備され、施設で一元処理する体制が整いました。新たな包装形態による製品は、盛岡や仙台の市場からも高い評価を受け、販路を確保する体制も整ってきました。

せん定講習会。及川普及員の熱弁と技が冴えわたります。
せん定講習会。
及川普及員の熱弁と技が冴えわたります
皮むき機の「ムッキー」。JA 加工所で使われています
皮むき機の「ムッキー」。
JA 加工所で使われています。
ころ柿の新たな包装形態。日持ちを良くするため脱気します。
ころ柿の新たな包装形態。
日持ちを良くするため脱気します。


小枝柿を産業として発展させるために


 一部の問題については解決の糸口が見えてきたものの、まだまだ課題は山積しています。現在の生産の主体は70歳代以上の高齢者であり、若い世代を取り込んでいくためには、これまで培ってきた生産・加工技術の伝承や、安定的な収入を確保するための戦略を構築することが急がれます。

 現在、技術伝承のためのDVDの作成、加工仕上げ時期の前進化技術の確立、加工時のカビ発生防止策、ボックス栽培など新たな栽培技術の導入、観光との連携や新商品の開発など多様な戦術を検討しています。これらの取り組みを実施し、小枝柿を産業として発展させるためには、地域の多様な人材が結集しなければなりません。普及センターでは、『小枝柿を応援する輪』を確立するために、関係機関と協働して取り組んでいこうと考えています。

農業まつりでころ柿づくりの体験学習
農業まつりでころ柿づくりの体験学習
ころ柿共進会。加工の技が重要です。
ころ柿共進会。加工の技が重要です。


大船渡農業改良普及センター 小原善一
前 大船渡農業改良普及センター 及川耳呂