ルポルタージュ 産地・人を訪ねて 2010年6月号

ぶどうの里でワインづくり

〜自園自醸ワインぶどう栽培研究会〜

紫波町



紫波町の農業、ぶどう生産


 紫波町は岩手県のほぼ中央、北上平野の上流部、盛岡市と花巻市の中間に位置し人口3万4千人余り、農業産出額は82億円で米が43%、果樹20%、畜産18%、野菜13%等が主な生産となっています。なかでも、ぶどうは県内一の産地であり、栽培面積では県全体の37%を占めています。町内のぶどう栽培は昭和30年から始まり、生食用を中心に拡大し、現在はジュース用、ワイン用品種等にも取り組み、144 haの栽培面積となっています。



ワインづくりの夢に向かって


 これからの産地は生食用だけを作っていては生き残れない。加工にも積極的に取り組んでいかなくてはいけない、という危機感が生産者には常にありました。

 町内のぶどう生産者は研修でヨーロッパ等海外を訪れることもあります。研修先のぶどう産地の多くはワインの産地でもあることから、研修を重ねるにつれワインづくりに早くから興味を抱いていました。

 しかし、紫波町は県内生産量の半分近くを占めるぶどう産地でありながら、これまでワインは造られてはいませんでした。町内産ぶどうは品質も良く、産直などでの人気は高く販売には行列ができるほどです。そこで、質・量ともに県内有数の生産を誇る紫波町のぶどうで町おこしをと考えたのが、自らも果樹栽培を手がける藤原町長でした。

 町長の呼びかけは、長年ワインづくりの夢を温めてきたぶどう生産者に勇気を与えました。

 平成10年、ぶどう生産者の有志でワインづくりに適した土づくりの研究に取り組み始め、平成13年、自らの園地で栽培したぶどうを自らの町で醸造する「自園自醸ワイン」の開発を表明し、ワイン専用種の作付けが始まりました。

垣根仕立に仕立てられたワイン専用品種
垣根仕立に仕立てられたワイン専用品種


念願のワイン完成


 町内産直施設等を運営する(株)紫波フルーツパークが醸造を担当することとなり、平成16年春には、生産者、消費者、町役場、さらに県工業技術センター、山梨大の横塚教授などワイン専門家らも参加し「紫波自園自醸ワイン開発研究会」を設立、酒類製造免許取得に向けた協議を進めると同時に、ワイナリーの建設に着手しました。

 平成16年秋にはメルローなど約440kgを初収穫し、県工業技術センターで試験醸造を行い、初めての紫波町産ワインが完成しました。収穫2年目には1,100kgの収穫となり、完成したばかりのワイナリーで赤・白・ロゼの合計5種類のワインを仕込み、平成18年秋から町内を中心に一般販売が始まりました。

醸造室
醸造室
ワイナリー全景
ワイナリー全景

自園自醸ワインぶどう栽培研究会設立


 ワインづくりの道すじに目処が立った平成18年には、それまでの「紫波自園自醸ワイン開発研究会」を発展的に解散し、新たにワイン専用種の栽培に関する研究会「自園自醸ワインぶどう栽培研究会」(会長:梅澤安志氏、会員16戸)を設立し、ワインづくりに適した良質のぶどうを生産しようと日々研鑽さんを重ねています。研究会では、栽培農家の情報交換と栽培技術向上を図るとともに、10日ごとに生産者のほ場を巡回調査し定点観測を行うことにより、糖度・酸度を見極め、適期を逃さず収穫できるよう努めています。


自園自醸ワインぶどう栽培研究会のみなさん
自園自醸ワインぶどう栽培研究会のみなさん
園地巡回
園地巡回
ぶどう栽培指導会
ぶどう栽培指導会


質の高いワインづくりを目指して


 「ワインの品質はぶどう畑で育つ」といわれるほど、ぶどうのできがワインの品質に大きく影響します。栽培研究会では、ぶどうの樹に着ける房数を減らすことで養分を集中させ、糖度の高い高品質のぶどうを生産するため、手間を惜しまず生産しています。

 ワイナリーでは品種の味・香り・色といった個性を活かすため、ぶどうそれぞれに合わせた醸造を行っています。

瓶詰め作業
瓶詰め作業
醸造責任者の高橋喜和氏
醸造責任者の高橋喜和氏
攪拌作業(赤ワイン)
攪拌作業(赤ワイン)


努力が実り高い評価


 農家と醸造者がこだわりを持って造っているワインが今年高い評価を受けました。

 ワイン評論家の田中克幸氏が昨年飲んだベストワインに紫波フルーツパークが造った白ワイン「紫波物語・リースリング2008」を選び、ワイン専門雑誌「ワイナート」3月号でプロ20人が選ぶ2009年ベストワイン特集に掲載されました。「世界的産地に匹敵する素晴らしいワイン」と絶賛され、全国のワイン愛好家からたくさんの問い合わせが寄せられました。また、田中氏は「北上山地の古代地層と実直な造り手の出会いが最高のワインを造り出した」とも分析し、まさに、農家と醸造者のこだわり、さらにそれらを支える行政の三者の取り組みが評価された結果といえます。


消費者への認知度向上に向けて


 高い評価を得たとは言っても、紫波町はワイン産地としてはまだ歴史の浅い産地です。ワイン生産量も4万本弱とまだまだ小規模産地といえます。

 紫波フルーツパークでは、ここ数年のうちに生産量を5万本まで増加させ、将来的には7万本程度まで増やしていきたいと考えています。

 田中氏は「これほど素晴らしいワインを造ることができる岩手は限りない可能性に満ちている」ともいっています。その可能性を開花させ、販売を拡大していくためにも、今後はワインの認知度を高めて広く消費者にPRしていくことが必要となります。

 4月からはワインの名称を「紫波自醸ワイン」から「自園自醸ワイン紫波」に変更してラベルも一新、更なるPRを図ることとしています。

新しくなった「自園自醸ワイン紫波」
新しくなった「自園自醸ワイン紫波」

こだわりのワインづくり


 栽培研究会会長の梅澤さんは「売れ筋だけでなく、本当のワインを造っていきたい」と語ってくれました。

 「自園自醸ワイン紫波」は、これからも栽培・醸造・自園自醸にこだわった本当のワインを造り続けていきます。

(盛岡農業改良普及センター 須貝克晴)