ルポルタージュ 産地・人を訪ねて 2010年10月号

飼料用米で地域振興

八幡平市エサ米研究会



産地の概要


北緯40度に位置する八幡平市は、「安代りんどう」と「西根ほうれんそう」をはじめとする園芸を核に、米・野菜・畜産とバランスのとれた農業地域です。

また、畜産と耕種農家が連携し、畜産経営体から供給されるたい肥を地域資源として活用した安全・安心な循環型農業を目指す産地です。


飼料用米収穫
岩手山を背景に飼料用米収穫


飼料用米生産のきっかけ


平成19年度、八幡平市の転作面積は約2,000haでこのうち600haが自己保全管理や調整水田であり、活用されない水田が耕作放棄地となることが懸念されていました。

また、この当時は輸入飼料価格が高騰してきたこと等から、水田を有効利用できる飼料用米生産について関心が高まっていました。

このような背景から八幡平市認定農業者協議会では、平成19年7月に飼料用米生産の先進地である山形県遊佐町で、飼料用米生産による飼料自給力向上と豚肉生産、豚尿(液肥)の活用による地域循環型農業について視察を行いました。

その後、同協議会のメンバーである養豚会社 コマクサファーム社長の遠藤啓介氏より「地域貢献できるなら飼料用米を買い入れたい」との申し出があったことから、平成20年度に研究会を立ち上げて、八幡平市での飼料用米生産とコマクサファームへの飼料米供給が開始されました。


飼料用米生産の経過


飼料用米は既存の農業機械・設備を利用できるうえ、転作として水稲を作付けできるため取り組みやすいこと、生産対策面では産地づくり交付金
を手厚くしたほか、水田等有効活用促進対策により主食用米とほぼ同程度の収入が見込めること等から、初年目の平成20年の飼料用米生産は、作付面積38ha、生産農家51戸でスタートしました。当初は飼料用米専用品種の種子が十分入手できなかったことから、病気に強く多収が期待できる主食用の「どんぴしゃり」を主に作付けし、183tが収穫されました。

さらに、平成21年度からは専用品種である「べこごのみ」や「つぶみのり」「つぶゆたか」の作付けも始まるなど徐々に生産体制が整い、飼料用米の作付面積は58ha、生産農家も85戸に拡大し、生産量は300tに達しました。

また、単収は平成20年度が486kg/10aに対し、21年度には522kg/10aと向上しました。

平成22年度からは戸別所得補償モデル対策で飼料用米は8万円/10a交付されることもあり、生産農家は124戸、面積は84haまで拡大し500tの生産量が見込まれます。

こうした取り組みの結果、八幡平市では約30haほどの遊休農地が水田として有効活用され、飼料の自給率向上に貢献しています。

出穂した飼料用米「つぶゆたか」
出穂した飼料用米「つぶゆたか」
粉砕された飼料用米
粉砕された飼料用米


飼料用米による新商品


飼料用米を添加した飼料で育てられた豚の脂身にはオレイン酸が多く含まれ、甘味やうま味が増すと言われており、消費者にとっては魅力的な商品となります。

八幡平市の飼料用米を全量購入している コマクサファームでは、粉砕した飼料用米を10%添加した飼料で豚を飼育し、その豚は平成21年度から新銘柄「八幡平稲穂豚」として仙台市場に出荷されており、今後の販売拡大が期待されています。


たい肥利用で低コスト化


飼料用米は単価が36円(税別)/kgと主食用米より安いことから、収益確保のため低コスト多収栽培が必要です。

八幡平市は酪農や肥育など牛を飼育している農家が多く、たい肥は豊富にあるため、入手しやすい牛ふんたい肥等を活用した「たい肥+ 窒素単肥」による肥料費を抑えた低コスト栽培を実践しています。 

10aあたり牛ふんたい肥2tと硫安30kgで飼料専用品種「べこごのみ」を栽培した場合、収量は600〜700kg/10a確保でき、肥料費は水稲用銘柄肥料を使用するより約5,000円コストを低減することが可能です。たい肥利用では、 コマクサファームから無償で完熟の豚ぷんたい肥が提供されていますが、耕種農家では散布できる機械が無い、たい肥散布に労力がかかること等から利用が進んでいないため、このたい肥の円滑な活用が飼料用米による循環型農業のカギとなっています。

左:直播栽培の飼料用米 右:移植栽培の「あきたこまち」
左:直播栽培の飼料用米 右:移植栽培の「あきたこまち」
フレコンで保管
フレコンで保管
飼料用米の直播作業
飼料用米の直播作業
乾燥調製するカントリーエレベーター
乾燥調製するカントリーエレベーター

収量向上の取り組み


飼料用米では食味低下が問題とならないことから、普及センターでは平成21年度に追肥の試験を実施し、幼穂形成期追肥に加えて穂揃期追肥を行うことにより高い収量が得られることを確認しました。これを踏まえて、たい肥活用による低コスト栽培のほか、飼料専用品種ごとの肥培管理をとりまとめた「飼料用米の手引き」を作成し、研究会全体で飼料用米の低コスト多収栽培に取り組んでいます。

さらに、今年度は追肥作業の労力軽減を目的に、東北農業研究センターで開発された簡易な追肥方法の実証を行いました。これは、硫安を水口
で溶かしながら流し込んで追肥する方法で、ほ場の肥料ムラが多少出るものの、肥料と動噴合わせて30kgを背負って水田の中を歩く従来の方法よりも労力が軽減できるうえ、他の作業の合間にも追肥が可能となります。労力不足などで追肥作業をためらっていた方には、是非実施していただきたい追肥方法です。

流し込み追肥研修会
流し込み追肥研修会
流し込み追肥
流し込み追肥

今後の取り組み


飼料用米の取り組みにより、遊休農地解消と水田での飼料生産、新たな銘柄開発など地域の活性化につながりました。

八幡平市エサ米研究会では、当面の収量目標を主食用米以上の収量となる600kg/10aとしているため、普及センターでは今後も収量向上について関係機関と連携して取り組むほか、今年度から本格的に始まった直播栽培による低コスト化などの課題解決により、飼料用米による地域振興を支援していきたいと考えています。

(八幡平農業改良普及センター 門間 剛)