【中央農業改良普及センター県域普及グループ】



■ 課題名


低コスト・環境負荷軽減のための適正施肥の推進

■ ねらい


2016年度に岩手県内で発生が確認された水稲の硫黄欠乏について、原因の一つである水田土壌可給態硫黄含量の低下実態を広く把握するとともに、硫黄欠乏症および可給態硫黄量の簡易診断の検討、可給態硫黄量低下原因を模索し、今後の対策推進に資すること。

■ 活動対象


大学研究者、農業関係団体職員、農業研究センター研究員、農業普及員

■ 活動経過


(1) 水田土壌の可給態硫黄量実態把握


前年度の活動で、東北大学大学院土壌立地学研究室、全農いわて及び全農広域土壌分析センター岩手、岩手県農業研究センターとの連携体制が出来ていた。土壌試料の収集提供を全農いわて、県域普及グループ、岩手県農業研究センターが行い、約700点の土壌試料の可給態硫黄を東北大学と全農広域土壌分析センター岩手が測定した。

(2) 水田土壌可給態硫黄量の簡易分析手法の検討


ア デジタルパックテストによる可給態硫黄簡易測定の検討


県域普及グループが可給態硫黄を自前で測定するため、全農広域土壌分析センター岩手が確立した比濁法による測定方法を参考に、安価なデジタルパックテストでの測定を試行した。

イ 銀メッキシートによる硫化水素発生量の見える化


新潟県が開発した銀メッキシートは、水田土壌に1週間埋設して黒化程度から硫化水素発生量を確認出来るツールである。変色程度が可給態硫黄量の目安に使えないか確認した。
(全農いわて、県域普及グループ、大船渡農業改良普及センター)

(3) 水稲硫黄欠乏症の発生確認手法の検討


可給態硫黄量が少ない水田において、硫酸苦土資材を株元に埋め込んで生育量の変化を対照と比較することで、硫黄欠乏症の確認手段と出来ないか検討した。(県域普及グループ、遠野普及サブセンター)

(4) 対策技術の現地実証


ア 可給態硫黄量が少ない水田において、硫酸苦土資材の追肥施用を実証(県域普及グループ、大船渡普及センター)

イ 石膏混和培土を用いた水稲育苗の検証(岩手県農業研究センター、大船渡普及センター)

(5) 可給態硫黄量低下原因の予備調査


ア 水田の硫黄収支試算(県域普及グループ)

イ 水田用排水の水質分析と土壌層位別可給態硫黄量の測定(県域普及グループ)

(6) 関係機関の連携及びPR


ア 水稲硫黄欠乏対策意見交換会を開催(2018年6月11日、8月6日、12月21日 東北大学、全農いわて、全農土壌分析センター岩手、農業普及技術課、岩手農研、中央普及県域G、大船渡普及)

イ 東北農業試験研究推進会議 土壌肥料研究会で硫黄欠乏について議論(2018年7月4日)

ウ 日本土壌肥料学会2018年度神奈川大会で岩手県での可給態硫黄広域分析事例を発表
(2018年8月31日 東北大学大学院土壌立地学研究室 菅野准教授が代表発表)

エ 雑誌「現代農業」2018年10月号で水稲硫黄欠乏の特集記事に県域普及グループが執筆。

オ 平成30年度第1回肥料経済研究会にて、水稲における硫黄欠乏の現状と対策が検討され、菅野准教授から岩手県の広域分析事例も紹介。(農水省、各肥料メーカー等が参加)

水稲硫黄欠乏記事掲載誌

■ 活動成果


国内の水田では発生しないとされてきた硫黄欠乏が実際に起こっていて、対策もあることを一定程度周知出来たが、発症の確定が難しいことを確認した。原因となる土壌中可給態硫黄の低下が県内で広く見られること、その原因として施肥成分の変化が考えられることを明らかにした。

(1) 水田土壌の可給態硫黄量実態把握


岩手県内水田土壌653点の可給態硫黄量は、東北大学の基準によると2割弱が欠乏レベル(10mgS/kg未満)、4~5割がグレーゾーン(10~20mgS/kg)で、欠乏リスク圃場は珍しくないことが示唆された。定点調査圃39点で1980年代と2010年代の可給態硫黄量を比較すると、ほとんどの地点で大きく低下し、20mgS/kg以下の圃場数は0点から19点(49%)に増加していた。

(2) 水田土壌可給態硫黄量の簡易分析手法の検討


デジタルパックテストによる可給態硫黄測定は測定値の振れが大きく、簡易測定には不適であった。銀メッキシートは分かりやすいツールであるが、変色程度が硫化水素だけでなく硫化物存在量に比例している可能性があり、可給態硫黄量の目安に使えるかは判断できなかった。

(3) 水稲硫黄欠乏症の発生確認手法の検討


施用前後での茎数の伸び率やSPAD値で生育量の改善が見られたが、目視では違いが分からず実用的な方法ではなかった。同様の手法を試みた広島県では明瞭な差が出ており、本県より施用時期の温度が高く土壌の還元化が進行しているためではないかと思われた。

(4) 対策技術の現地実証


ア 可給態硫黄量が少ない水田での硫酸苦土資材の追肥施用効果は、大船渡では無処理比+6~17%の増収となったが、花巻と奥州では差が見られなかった。

イ 石膏混和培土を用いた水稲育苗では、生育量やマット強度で問題なく、釜石では田植え後の初期生育が優れた。しかし慣行苗より約1kg/箱重くなることが難点であった。

(5) 可給態硫黄量低下原因の予備調査


水田の可給態硫黄量が低下した原因として、水稲用肥料に硫黄が含まれなくなったことや溶脱が考えられる。地帯や施肥体系で変わるものの、収支はマイナスとなる場合が多そうである。

■ 協働した機関


東北大学大学院土壌立地学研究室、JA全農岩手県本部、JA全農広域土壌分析センター岩手、農業普及技術課、岩手県農業研究センター生産環境研究室、遠野普及サブセンター、大船渡農業改良普及センター

■ 中央農業改良普及センター県域普及グループ


水田利用・生産環境チーム(チームリーダー:中西商量、チーム員:横田紀雄、渡邊麻由子)
執筆者:横田紀雄